その村の状態はレルドリンの説明から想像してい頭髮保養たよりも、さらにひどかった。村のはずれのぬかるみには、ぼろをまとった六人の乞食が立っていて、懇願するように両手を伸ばし、感情をむきだしにして金切り声をあげていた。家々と言っても、それらは中で焚いているかすかな炎の煙が外ににじみ出てくるような、粗末なあばらやにすぎなかった。泥だらけの道では、痩せこけた豚が鼻の先で地面を掘って食べ物をさがしているのだが、そのあたりの悪臭はすさまじいものだった。
葬儀の列が、ぬかるみの中を村のむこう端にある墓地に向かって、重い足取りで進んでいた。板の上に載せられて運ばれていく遺体はみすぼらしい茶色の毛布にくるまれているというのに、アレンド人の神チャルダンに仕える神父たちは裕福そうな法衣と頭巾を着け、戦争や仇討ちといったものには大きな縁があっても、ひとびとの慰めにはなりえなかった古い賛美歌を詠唱している。未亡人はむずかる幼児を胸に抱いて、亡骸のあとについていく。その顔はうつろで、目は死んでいるようだった。

宿屋はビールのむっとするような臭いと食べ物が半分腐ったような臭いがした。社交室の一方の壁は火事で焼け、低い梁の天井も黒く焦げている。焼けた壁にぽっかりあいた穴には、ぼろぼろの帆布がカーテンがわりにかけてある。部屋の中央にある暖炉からはしけた煙がたちのぼり、いかめしい顔をした宿の主人はまったく愛想がない。夕食にかれが用意したものは、ボウルに入った水っぽいオートミール粥――大麦とかぶを混ぜたもの――だけだった。
「じつに素晴らしい」シルクは皮肉まじりにそう言いながら、口をつけていないボウルを押しやった。「きみにはいささか驚かされたよ、レルドリン。世の中の悪を正そうとするきみの情熱も、この場所までは届かなかったと見える。今度の改革運動にはぜひここの領主の訪問という項目を入れておいてもらいたいが、どうかな? かれはとっくに絞首刑になっていていいはずだ」
「こんなにひどいとは思わなかったんです」レルドリンは打ちのめされたような声で答えた。そして、はじめて事実を見るかのようにあたりを見回した。かれの率直な顔に、恐怖ともとれる不快な表情が浮かびはじめた。
ガリオンは胸のむかつきに耐えかねて立ち上がると、「ぼく、おもてに行ってくるよ」と言った。
「あまり遠くに行っちゃだめよ」ポルおばさんがうしろから警告した。
外の空気は少なくとも中よりはきれいだった。ガリオンはぬかるみの一番ひどいところを避けながら、村のはずれに向かって注意深く足を進めた。
「お願いです、だんなさま」大きな目をした幼い少女が物乞いをしてきた。「パンをひと切れくれませんか?」
ガリオンはなす術《すべ》もなく少女を見た。「ごめんよ」かれは何かあげられるものはないかと衣服をまさぐってみたが、少女は泣き出しながら立ち去ってしまった。
悪臭のする道のむこうには切り株がぽつぽつ並ぶ野原があり、ガリオンとおなじ年ごろのぼろをまとった少年が、体格の悪い二、三頭の牛を監視しながら木のフルートを吹いていた。かれの奏でるメロディは胸が熱くなるほど純粋で、それが誰にも気づかれることなく、傾きかけた青白い日差しの中に並ぶあばら家のあいだを漂っていく。少年はガリオンの顔を見ても、演奏を中断しようとしなかった。ふたりは互いの顔をまじまじと見つめたが、言葉は交わさなかった。
野原を越えた森のはずれのあたりで、木立の中から黒っぽいローブに頭巾をかぶり黒い馬にまたがった男が出てきたかと思うと、馬の上から村をながめた。その黒っぽい人影にはどことなく不気味な雰囲気が漂っていたが、同時にどことなく見覚えのある姿のようにも思えた。ガリオンはなぜかしら自分がその男の正体を知っているはずだという気がした。しかし、いくらその名前を思いだそうとしても、うにかれをかわしていく。かれは森のはずれの人影を長いこと眺めながら、沈みゆく太陽に照らされているのに馬のうしろにも騎手のうしろにも影がないということを、ほとんど無意識のうちに感じていた。心の奥底で何かがかれに金切り声をあげさせようとしたが、頭がすっかりもうろうとしていたので、かれはただぼんやりと眺めているだけだった。言っても仕方のないことだから、森のはずれの人影のことをポルおばさんや他の仲間に言うつもりはなかった。背中を向けるとすぐに、かれは今見たことを忘れてしまった。
あたりはだんだん暗くなってきた。体がブルブル震えてきたので、かれはきびすを返し、少年のフルートが奏でる物悲しい調べが空に舞いあがっていくのを聞きながら、宿屋への道を戻っていった。